Albert Watsonは一つの信念を持っています。それは「個性が強いほど、写真はシンプルになる」と言うものです。遠くを注視しているKate Mossのポートレートは、その信念を反映しています。 Albertは様々なセレブのポートレート、数々の雑誌の表紙、そして映画のポスターなど、数え切れないほどの撮影に携わってきましたが、その信念を忘れたことはありません。自然光を使うとしても、機材を用いて光をシェーピングするにしても、彼の光の使い方は、この信念に基づいています。
ナチュラルな雰囲気
Albertは複数の雑誌の表紙撮影のため、モロッコにいました。Kateの写真は、ドイツ版VOGUEのためのものでした。
1993年1月16日、時刻は午後5時を回ったところでした。私たちはマラケシュのある建物の屋上にいて、暖かな午後の光が屋上を照らしていました。美しさと肌に焦点を当てたいと言うことだったので、Kateの気品を強調するために、ヌードショットを撮りました。彼が照明を考案している間、シンプルさを重要視する姿勢が現れていました。撮影には自然光のみを使うことにしました。しかし自然光は常に移り変わるために、撮影にとって大きな負担です。光を直感的にとらえ、その強さやニュアンスの変化に素早く対応する能力が求められます。
撮影の全ての過程におけるこだわりが、にじみ出ています。髪は自然に下ろし、メイクも最低限にしたので、準備時間はほとんどかかりませんでした。衣装も着ていないので、その準備もいりません。ヘアメイクや衣装などそれぞれの調和も気にする必要がなかったので、撮影に集中して取り組むことができました。
Kate Mossはまだ駆け出しのモデルでした。写真移りもよく、彼女が優れた被写体であることは確かでしたが、時折カメラの前でどうしたら良いかわからなくなる時もありました。Albertは彼女の本来の姿を引き出しました。「君は森の中を舞う精霊か妖精のようだ。」 「しゃがんで、何かを探しているような少し憂いのある表情をしてごらん。」と彼女に自分の姿を思い描くように言いました。
そして、接写を撮りました。Kateは少し前かがみに、思いに沈んだ目をしています。しゃがみこんだ彼女に午後の日差しがあたり、彼女を際立たせます。
そうして撮影されたのが、このアイコニックな写真です。陽の光が、肌のマットな質感を演出しています。
テイク・ツー
2枚目の写真は、背骨の湾曲をくっきりを写し出しています。スタジオ・タイプのライティングで室内で撮影しましたが、1枚目と同じムードがよく出ています。自然光のやわらかい雰囲気をうまく模倣しています。モロッコで撮影されたこれらの写真は、Kate Mossの最も有名な写真の一つです。また彼女自身も写真を大変気に入っています。難しい状況でしたが、Albertは双方の写真で肌に同じ光の効果を作り出し、シリーズに一体感を生み出しました。
バースデー・ガール
撮影は特別な日に行われました。Kate Mossは、スーパーモデルとして、またファッションアイコンとして、全世界に名を馳せてきました。しかし、マラケシュに来た時のKateはまだ新人で、今後成功を得られるかどうかの瀬戸際に立っていました。
Albertは14時間通して、一日中撮影しました。その間に、25ショットが撮影されましたが、Kateは一度も文句を言わず、素晴らしい表現をしてくれたと、Albertは述べています。撮影が終わると、KateはAlbertにこう言いました。「実は、今日は私の誕生日なんです。」 その日は、彼女の19歳の誕生日でした。
作品の多様性
この撮影では、Albertの2つの才能が最大限に生かされています。絶妙な光の使い方と、人を結びつける能力です。
彼が撮影する際に重要視しているのは、写真の「クオリティー」と「多様性」です。セレブリティー、風景、ファッションなど様々な分野の撮影をしていますが、どの撮影においても、同じ情熱を持ち、クオリティーに細心の注意を払っています。また多様性を追い求めることが、新たな作品を作り出すための活力になっており、それは彼の人生をさらに豊かにしています。
純粋さと完璧さ
Albertは写真の無垢な美しさを愛しています。そしてその純粋さがもたらす、アートを捉えたいと考えています。この2つの写真は、まさに無垢な美しさを捉えたものです。一人の少女、Kateのピュアな姿を捉えた名作です。