光で作る「ドラマチック」な肖像写真

26 8月, 2018

執筆者:: Nahoko Ando

クェンティン・タランティーノ、ヴィム・ヴェンダース、リュック・ベッソンにアッバス・キアロスタミなどの映画監督や、音楽家、作家、写真家など、世界的に著名なクリエイターを撮影してきた加藤孝。

1989年から2000年までの約11年間、雑誌「マリクレール」で映画監督を撮影する連載を手掛けたほか、「SWITCH」、「東京人」、「エスクァイア」などの雑誌で、その撮影の機会に恵まれた。

2018年7~8月に開催されたDIGINNER Galleryでの写真展『F.A.C.E』の作品より

撮影の手法はシンプルでストレート。逃げも隠れもできない、至近距離での真っ向勝負だ。当時はハッセルブラッドを使いフィルムで撮影していた。途中で確認できるわけもなければ、撮影時間に余裕があるわけでもない。

「取材が行われるホテルの一室に、染めてムラをつくった布を背景に貼り、準備しておく。そして、ほんの少し時間を頂戴して撮影するんです」

撮影時間は5分から10分。ロール(フィルム)でいうと1~3本だ。1ロールは12枚だから、12~36枚しか撮れない。

そんな制約のなかで言葉の通じない海外の巨匠からいい表情を引き出すなんて至難の業のように思えるが、加藤が写した写真からはそんなあわただしさを感じさせない魅力がある。

何か秘策があったのかと尋ねれば、撮影の最初に伝えていた言葉はあったという。「Stare the lens」、「レンズを見つめて」だ。

「Look(見て)ではなく、Stare(見つめて)。何かひとつ方向性があったほうがいいと思って、それを伝えてから始めました。そのあとは、『映画のことを考えて』、『日本のファンにメッセージを』みたいなことを話しかけて。まあ、英語圏以外の方も多かったので、伝わらないことも多かったですけどね(笑)」

「ピントも合わせてないんです。いつも同じ距離にしていて、手持ちで体を動かしながら撮っています。すごく寄っていて、60㎝くらいの距離で撮影しているんですよ。撮られる側は威圧感があるので、驚いていたかもしれないですね」。

これだけ偉大な監督たちと対峙しても、「カメラを持ったら緊張しない」そうだ。人とコミュニケーションを取り撮影することが、もともと好きなのだという。

上記2枚はDIGINNER Galleryでの写真展の際に行われた撮影会での写真。バッテリータイプのB2を使用。OCFソフトボックス Octa 40×40㎝がキャッチライトとなって瞳に入り、活き活きとした表情に。

最近取り組んでいる作品は、双子を題材にした「TWINS」だ。このシリーズを撮り始めたきっかけは、ある日、街で偶然見かけたかわいい双子のおばあちゃんだった。

DIGINNER Galleryでの写真展『F.A.C.E』にて展示された「TWINS」シリーズ。この撮影のためにB2を購入した。

「エスカレーターに乗っているときにたまたま見かけたのですが、急いでいたから引き返せなくて。でもそのおばあちゃんのことがずっと頭に残っていて、撮りたいと思ったのがきっかけでした」

写真を並べて見えてくるのは、「似ていること」より、その「差」だ。モノクロにして色の情報を省くことで、人物の顔が際立ち、その差異がはっきり浮かび上がってくる。

モノクロで双子といえば、ダイアン・アーバスの写真を思い浮かべる人もいるかもしれない。お揃いの服を着た双子が並んで写る、ちょっと怖さも感じるあの写真だ。

「アーバスのように2人を並べて撮るのではなく、1人ひとり撮って、写真を並べたかったんです。一緒に1枚の写真に写すと、2人を比べられないから。双子って、すごく似ているから、会った瞬間はその違いがあまりわからないけれど、撮るとその違いがわかる。性格も全然違いますしね」

光と影が作り出す明暗は、写真の印象を決定づける重要な要素のひとつだ。ライティングのこだわりを訊くと、「影のつくり方ですね」と答えが返ってきた。

上記2点はSIS companyによる舞台のポスター写真。両方ともRFiソフトボックス Octa 90cmにソフトグリッドを組み合わせて使用し、光を集束させて綿密にコントロールしている。

「影に美しさを感じるので、影のことしか考えてないかもしれません。影をつくらないようにする撮影もありますが、それも影について意識するという意味では一緒。消したり、作ったり、ということをずっと意識しています。そして基本的にメインのライトは1灯。太陽と一緒だと思っているから」

プロフォトを使い始めたのは、出版社に勤めていた35年程前のこと。スタジオにあったのがPro-2だった。

約3年で独立してから、初めて自分で買ったのがPro-3。それから、Pro-5、D1、B1、Proタングステン Air、B2、A1…とさまざまな機種を使い続けてきた。

その魅力のひとつは、150種類以上ある豊富なライトシェーピングツール。特に、RFiソフトボックス Octa やソフトライトリフレクターを愛用している。

「それに、チャージが速いのも魅力ですね。特にPro-10はとんでもなく速い。35㎜で撮影する時はバンバン撮りたいので、とても助かります」

最近の仕事は、舞台や歌舞伎のポスターやパンフレット、カレンダーなどの撮影が多い。2018年の初めに話題となった、歌舞伎座の高麗屋三代同時襲名における松本白鸚、松本幸四郎、市川染五郎のポスター撮影も加藤が手掛けた。

「歌舞伎座」のポスター写真。歌舞伎の撮影は、稽古場に機材を持ち込んで簡易スタジオをつくり撮影している。

「大阪松竹座」のポスター写真。

2017年8月には、インドで歌舞伎役者の尾上菊之助さんを撮影した。同10月に上演された新作歌舞伎「極付印度伝 マハーバーラタ戦記」のポスターのための撮影だ。

 

「歌舞伎座」で上演された「極付印度伝 マハーバーラタ戦記」のポスター(上)と、ポスターになる前の写真(下)。

上記ポスターの撮影風景。B1、RFi ソフトボックス Octa 120㎝、Air Remote TTLを使用して日中シンクロで撮影。太陽が雲に隠れたり雲から出てきたり環境光がめまぐるしく変化したので、TTLがあってとても助かったという。

撮影した場所は、インドのリシュケシュ。後ろに流れるのはガンジス川だ。

「大変な撮影でした。行程が厳しかったこともありますが、想定外のことが多かったですね。インドは雨期だったので、曇り空を想定していたら撮影日は晴れたり、ロケハンの時に想定していた岩が、水位が上がってなくなっていたり…。でも、結果的にすべてうまくいったんです。ラッキーでした。思い通りの絵になったので、ついていましたね」

どんな写真を撮る上でも、「ドラマチックである」ことを基本的な指針としている。演劇や歌舞伎好きが高じて撮影を多数手がけるようになった加藤にピッタリのキーワードだ。

「ドラマチックに撮るためには、光をコントロールする必要がある。だからストロボが必要なんです。そこに何もない写真は嫌だから」。

以前、ずいぶん昔に雑誌で撮影した1枚の肖像写真を、ずっと覚えていてくれた読者に会ったことがあるという。いつまでも記憶に残る写真を、これからも楽しみにしたい。

写真家:加藤 孝

執筆者:: Nahoko Ando

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