パーソナルプロジェクトとしての写真撮影のアイデアがあっても、それを実現する方法がよくわからないということはありませんか?フォトグラファーのZhang Jingnaが、彼女のパーソナルプロジェクト「Motherland Chronicles」がアイデアから実現に至るまでのストーリーをご紹介します。
前回の記事では、商業撮影のプロセス についてご紹介しましたが、今回は、同じようにファッションの分野で、個人的な撮影を行うときの私のアプローチについて(商業的な仕事のように単に依頼を受けるわけではないので)、ワークフローのより早い段階、そのコンセプト作りから始めて、お話ししようと思います。
最初に断っておきますが、私は、エディトリアルや商業撮影は、フォトグラファーのスキルの履歴書であり、一方で(作品撮りといった)個人的な撮影は、フォトグラファーのアイデンティティを示すものだと考えています。だから、商業的な撮影と個人的な撮影は、できるだけ分けて考えるべきだと思います。もちろん、スタイルや美意識がそれぞれに自然と滲み出るのは良いのですが、コンセプト的には、商業的な撮影は、常にクライアントの製品やサービスを念頭に置いて行われるべきもので、個人的な撮影は、その人が表現したいもの、世界に発信したいものであるべきだと思います。
この記事では、私の個人的な撮影における典型的なアプローチと考察について紹介します。商業的なプロジェクトとは異なり、どのように撮影を行うかについての決まったルールや要件はありません。人それぞれ、やり方は違うかもしれませんが、これは私の考えです。楽しんで読んでいただければ嬉しいです。
1. はじめに
多くの場合、やりたいことをやるための無限の予算があるわけでもなく、撮影を始める前にその発表の場が用意されているわけでもありません。そのため、作品撮りをする場合、一緒に仕事をしてくれる人を集めることや、本業以外に時間を確保することが課題となってきます。ここでは、シリーズ(作品)の土台を作る上で考慮すべき重要な要素を説明します。
- テーマとコンセプト
- チーム
- モデルリリース
- モデル探し
- ライティングとスタイル
- タイムライン
- 予算
- 写真の条件
1.1 テーマとコンセプト
ここが出発点です。広いテーマであれ、具体的なアイデアであれ、言いたいことを表現している。それが、その作品撮りを行う理由です。テーマやコンセプトが決まれば、シリーズ全体のスタイルが決まり、撮影の仕方やその内容に影響を与えます。
「Motherland Chronicles」プロジェクトにあたって、インスピレーションとなった写真をご紹介します。
1.2 チーム
メイクアップ、ヘア、スタイリングのスタイルは、人によって異なります。普段から一緒に仕事をしてくれる人を見つけることは、写真の仕上がりを左右する重要なポイントです。「ドリームチーム」を結成するには、失敗と時間が必要です。辛抱強く、自分が好きな人、そして自分を好きになってくれる人と一緒に仕事をしましょう。
もし失敗しても、あなたかモデルのどちらかができるちょっとしたDIYがあります。あなたがメイクアップを学ぶ時間がないのであれば、モデルはほとんどの状況で自分でメイクできるはずなので、「ドリームチーム」になる前の出発点として、そこから始めてみるのもいいでしょう。
1.3 モデルリリース
これは非常に重要で、譲れないところです。モデルリリース(人物肖像権使用許諾書)を取得しないと、作品を発表したいときに多くの問題にぶつかることになります。前もって、モデルがあなたのリリースに問題がないことを確認し、撮影が終わった後にサインをもらってください。私は通常フルリリースを使用しますが、モデル事務所によっては、フォトブック、展覧会、プリントなど、特定のアート関連の使用に限定されることもあります。
1.4 モデル探し
適切なモデルを見つけるのは、大変な作業です。しかし、「ドリームチーム」を見つけるのと同じように、粘り強く取り組む必要があります。私の場合、ModelMayhemで数百ページのモデルに目を通したり、街でスカウトしたり、友人や知り合いに頼んだり、時にはアシスタントにモデルやセルフポートレートをお願いすることもあります。
モデル事務所も選択肢の一つですが、料金が複雑な場合がありますし、中にはフルリリース(肖像権放棄)にサインしてくれない場合もあります。交渉の際には、そのことを念頭に置いてください。また、ネットで見つけても、直接会って見つけても、必ずキャスティングをすることです。
1.5 ライティングとスタイル
これは早い段階で決めなければならないことです。ライティングとポストプロダクションは、シリーズをつなぐ統一的な要素になります。テーマやコンセプトが一貫していても、スタイルやライティングにシリーズとしての流れがなければ、同じ作品シリーズではないように見えてしまいます。
このシリーズでは、さまざまなアートから影響を受けました。その絵画的な効果を出すために、ライティングを非常にやわらかくすることに重点を置きました。
1.6 タイムライン
最終的に自分一人が監督していると、つい先延ばしにしたり、写真をバックログに残してしまいがちです。自分の中で期限を決めて、コミットしてください。量なくして質はありません。決めた期限を守るために自分を追い込んで、作業を進めましょう。プロジェクトが終了したあとで、写真を磨き上げることもできるのです。
1.7 予算
制作には多くの費用がかかるので、見積もりを作成して全体像を把握しましょう。例えば、ライティング機材のレンタル費用、交通費、食事代、小道具やセットにかかる5,000~10,000円ほどの制作費など、毎回必要だとわかっている基本的な、とてもシンプルなものでよいのです。シリーズを完成するために必要な予算を把握しておけば、それに応じて金額を割り当てることができます。
1.8 写真の条件
モデルリリースと同様に、これは、一緒に仕事をするすべての人に前もって伝えておきたいものです。各撮影のたびに写真を公開してチームに送るのか、それともプロジェクトのあと書籍として出版するときのために、すべてを保存しておくつもりなのか、明確にしましょう。
2. 撮影のポイント
ここまでは、プロジェクトを通して一貫性を保つために、最初に決めるべき内容です。ここからは、撮影のポイントについて、それぞれ私の考えや作業プロセスを紹介します。
- インスピレーションとリサーチ
- コンセプトの明確化
- ムードボード
- 構図のスケッチ
- ムードとライティング
2.1 インスピレーションとリサーチ
シリーズで決めたテーマに沿って、リサーチして、ピンとくるものを見つけましょう。アイデアでも、言葉でも、イメージでも、すべて保存しておいて、インスピレーションをストックします。
そこから特定のインスピレーションやアイデアを選び出し、前もって理想的な写真をリストアップするか、もしくは、私のように、撮影の都度、そのとき何を感じるかによって、リストから外していくという方法もできます。
通常、撮影のインスピレーションとなる要素は - 色やアイテム、時代、場所など - ひとつで十分です。カタログの場合は、イメージベースのインスピレーションであれば、フォルダを作成して、そこに写真を保存しておけば十分です。購入やレンタル、スカウトが必要であれば、見つけたものをブックマークしておけるPinterestがおすすめです。一度にすべてを見ることができ、また、必要なときのために直接リンクや説明文を残しておくこともできます。
リサーチで大切なことは、テーマをしっかり持ち、それを貫くことです。リンク集を見たりしていると、ついつい新しい発見に気を取られてしまいますが、見つけたものすべてが自分の作品とうまくかみ合うとは限りません。
2.2 コンセプトの明確化
ストックしたインスピレーションをもとに、その要素からコンセプトを考え、自分の頭の中でイメージを膨らませていきます。
例えば、中世のドレスを使うなら、それを着るのはどんな人物で、どんな容姿で、どんな性格なのかを考えてみましょう。そのストーリーを踏まえて、どんな髪型、メイク、アクセサリー、舞台を用意するか考えましょう。
各要素の参照元を引いておくと、必要なときに思い出したり、共同作業者に見せたりすることができます。言葉よりもイメージの方が、どんな時も伝わりやすいでしょう。すべて終わったら、そのシリーズのライティングとスタイルに合った、現実的なものに落とし込んでいきます。
以下は、Georges de La Tourの絵画に描かれたキャンドルライトからインスピレーションを得たシリーズの一例です(キャンドルの小道具の参照元は、上写真のPinterestのスクリーンショットで見ることができます)。
2.3 ムードボード
チームのために、ヘアスタイルやメイクアップ、スタイリングの参考となるファイルやプレゼンを作成します。私は通常、コンセプト作りの段階から参考資料を絞り込みます。一人あたり2~3枚のイメージで十分です。
ライティングや構図など、ムードの参考資料も含めると良いでしょう。どのように撮影するのか、チームがイメージしやすくなります。
これは、チームからフィードバックや提案をもらう、あるいは、できないことがあればそれをシェアして代替案を一緒に考えるのに良い機会です。明確なコミュニケーションは非常に大切です。チームの理解を確かめましょう。
2.4 構図のスケッチ
私にとって構図は、写真において最も重要な要素のひとつです。構図は、モデルのポーズ、フレーミング、そしてライティングの組み合わせです。
絵の才能は必要ありませんし、私自身は棒描きのスケッチしかできませんが、それでも十分役に立ちます。簡単な落書きかもしれませんが、頭の中でイメージがより具体的になっていきます。
スケッチが出来上がったら、撮影やレイアウトの参考にして、チームもそのフレーミングに最適なモデルの見せ方ができるようになります。もちろん、100%こだわる必要はありません。しかし、これらをあらかじめ決めておくことで、より効率的でスムーズな撮影が可能になるのです。
三連作「The Three Graces」では、ベネチアの「Casin dei Nobili」の3つの美しいベネチアンマスクを使いました。どのように組み合わせるか、どのような流れにするかといった構図にこだわったので、スケッチは特に重要でした。
2.5 ムードとライティング
前述したように、シリーズの場合、モデルや衣装のスタイリングの方向性のほかに、シリーズでまとまりを出すために、ライティングも一貫性を持たせるべきです。
もし、何らかの理由でライティングを変える必要があると思ったときは、必ず撮影前にテストしてください。私のシリーズでは、スタジオで絵画的な表現をするために大きな光源にこだわりました。大型の Profoto アンブレラ ディープ ホワイト XL と ディフューザー をよく使い、Savage Universalの黒と質感のある背景をミックスして、絵画のようなタッチを加えました。
3. 撮影について
事前準備も万全で、自信を持って撮影に臨みましょう。撮影現場でのアドバイスは、前回のコマーシャル撮影の密着記事でお話ししたことと同じですが、3点だけ付け加えたいと思います。
3.1 ディテール - 細部まで
個人の作品撮りは、完璧主義者になるには最適な場所です。ひとつひとつの要素をきちんと押さえ、それらが互いにうまく調和していることを確かめます。私の場合、各撮影でせいぜい2ショット、複雑なセットアップの場合は1ショットに5〜7時間かかることもあります。
3.2 時間をかけて
不確かなことがあれば、時間をかけて解決しましょう。学ぶのに時間はかかりましたが、むしろやらずに後悔することはなくなりました。
だからこそ、心から納得し、理解しあえるチームと仕事をすることが大切です。次のステップや決断を考えるのに少し時間が必要なとき、恥ずかしく思ったり、不快に思ったり、急かされたり、撮影が終わってから「もっと時間をとって別の背景を試しておけばよかった」と思うようなことは避けたいものです。
3.3 モデルリリース
モデルリリースにサインをもらうのを忘れないように!
4. 撮影のあと
完成したらチームに写真を送りましょう。高解像度画像だけでなく、ソーシャルメディアへの投稿用にweb-resも用意します。
チーム全員のクレジット、モデルリリースや契約書などの書類も、必ずファイリングしておきましょう。書類作成とファイリングは非常に重要です。いつか必要になったときに、書類にかけた時間にきっと感謝するでしょう。
5. パブリシティ(広報活動)
撮影後の作業で一番多いのは広報活動でしょう。個人の作品なので、チームのために見てもらう、公開するのはあなたの役目です。
Behance、deviantART、Flickrなどのポートフォリオギャラリーや、Facebook、Instagram、Twitterなどのソーシャルメディアなど、オンラインには多くの手段があります。また、プレスキットを用意して、自分が手がけた作品と同じようなテーマの作品を取り上げている好きなブログやニュースサイトに送るとよいでしょう。
特集が組まれたら、そのニュースをチーム内で共有しましょう。自分たちの努力が認められ、一緒に手がけた作品が評価されていることを知れば、チームも喜ぶでしょう。出版物に作品が掲載された場合は、恥ずかしがらずに編集者に高解像度のPDFを要求してください。スキャナーで取り込んだ画像より、断然見栄えがしますし、将来的にポートフォリオや履歴書に入れておくとよいでしょう。
これで以上です!個人的な作品撮りを楽しんでいただければと思います!そうでなくても、ぜひ検討してみてください。特別な充実感がありますし、非常に楽しく、また大きな学びを得ることができます。何か質問があれば、遠慮なく聞いてください!私が手がけたシリーズにご興味のある方は、以下の写真やMotherland Chronicles専用のウェブサイト、そしてその舞台裏を私のブログでチェックしてみて下さいね!
/Zhang Jingna
Jingnaは、好奇心溢れるフォトグラファーのために、ヒント&コツを紹介してくれます。
彼女の作品は、ウェブサイトやFacebook、Instagramで見ることができます。