舞山秀一が Profoto D2 と様々なライトシェーピングツールを使ってプロのダンサーを撮り下ろした今回の作品。屋内のスタジオで撮影したモノクロ作品を紹介した前編に引き続き、後編では、屋外で撮影したカラー作品を紹介していく。
日常をドラマチックに演出してくれる日中シンクロは、ストロボがなければできない表現のひとつだ。今回、屋外の撮影では、ハイスピードシンクロ機能を使って、強い日差しのもとでシャッタースピード 1/1,000 秒でストロボを同調させることで、周辺の色をきっちり落とし、かつ被写体を的確にとらえた。
Nikon Z6 II と Profoto Air Remote TTL-N
ちなみにハイスピードシンクロ機能に対応していないストロボの同調速度は、フォーカルプレーンシャッターで通常シャッタースピード 1/200 秒。
同調速度より遅いシャッタースピードでは、フォーカルプレーンシャッターの場合、シャッター幕が完全に開ききった状態の間(1/100 秒間など)に、一瞬(1/10,000 秒間など)ストロボが光って、センサー全体に均一に光が当たるため、画像に黒い筋は表れない。
一方で、同調速度より速いシャッタースピード(1/1,000 秒など)でストロボを同調させると、先幕が走り出してシャッターが完全に開ききらないうちに後幕が走り出すため、センサー上にスリット状に一瞬のストロボ光が当たり、画像にストロボ光が当たらない黒い筋が出現してしまう。
そこでハイスピードシンクロ機能を使うと、先幕と後幕でできるスリットがセンサー上を走る間ずっと、瞬間光を連続的に発光させて定常光のような光を出すことで、均一な光がセンサーに当たって、画像全体に均一な露出が得られる仕組みとなっている。
Profoto D2 と OCF ズームリフレクター
ちなみに、ハイスピードシンクロ機能を使うには、ハイスピードシンクロに対応したカメラと、Profoto AirTTL 対応コマンダー Profoto Connect または Profoto Air Remote TTL、Profoto AirTTL 対応のストロボ(A1/A1X/A10、B1/B1X、B10/B10 Plus/B10X/B10X Plus、D2、Pro-10、Pro-11など)が必要になる。
「ハイスピードシンクロ機能は自然光と同じようにシャッターが切れるから楽ですよね。写真は止めるのもブラすのも表現だから、意図に合っていればどちらでもいいと思うのですが、もちろん、動きの速いダンサーの撮影でも全く問題なく捉えられます。周辺がしっかり落とせるから、太陽と喧嘩しても負けてないという感じがします」
撮影風景
外での撮影の前半で使用したライトシェーピングツールは、OCF ズームリフレクター。モデルの動きに合わせながら肩や胸のあたりを狙って照射した。
「OCF ズームリフレクターは、内面が切子ガラスのようになっていて、ヘッドの発光部が光ると、リフレクター内面全体が光って大きな光源になります。漏れ光がシュッと集光されて、方向性のある力強い光が出るのが特徴です」
Profoto D2 と OCF ズームリフレクター
撮影風景
「今回日中シンクロで、空の青さをしっかり出して、昼間にも関わらずストロボを当てているという感じを作ることを、準備の段階で絵コンテに書いて構想していました。ハイスピードシンクロ機能を使うことでシャッタースピードを 1/1,000 に速くすることができて、さらにストロボの光量を上げて絞りを絞ることで、背景をここまでしっかり落とすことができたのは、嬉しい驚きでした」
最後に赤いドレスに衣装チェンジして、アクセサリーもグリッド を取り付けたマグナムリフレクターに変更して撮影。
「マグナムリフレクターはリフレクターの内面が、雪平鍋の内面のように、表面を打ち付けた槌目模様をしていて、OCF ズームリフレクターよりは漏れ光が広がった光が特徴です」
撮影風景
Profoto D2 と マグナムリフレクター (グリッド 337mm 付)
「今回はマグナムリフレクターにグリッドをつけて、モデルの近くに置くことで、かなり絞った光を当てました。ハイライトから影のグラデーションが滑らかでありながら集光した光で、ダンサーをドラマチックに描き出しました」
こうして、綿密に計画されたセッティングとダンサーのしなやかな動きのコラボレーションは、丸一日かけて終了した。
最後に、長年写真と向き合い考え続けてきた舞山に、これから写真家を目指し、ライティングを学びたいという人へアドバイスをもらった。
「光のことは、時間をかけないとなかなかうまくならないと思います。今はカメラが進化して自然光でも色調整がいらないくらいにきれいに撮れるようになったから、光と向き合う時間が減っているのではないでしょうか。ストロボは光をコントロールする道具。それをどういう位置から、どうあてればどう写るのか。環境の状況や顔の凹凸によっても、できる影の種類は変わってきます。自分でやってみないと覚えないから、とにかくテストしてみることが大切ですね」
テクニックや表現のアイディアは、何からインスピレーションを受けてどうやって磨いていくのだろうか。
「舞台や映画を見てインスピレーションを受けることもありますし、当然他の人の写真を見ることもありますが、どちらかというと人の作品を見る理由は、同じものを間違えて作らないようにするためかもしれません。世の中にすでにあるものをよけて行けばオリジナルになると信じていますし、影響を受けたとしても、今まで生きてきた環境や経験が作った、自分にしかないものはにじみ出てくるはずなので」
「私は、アイディアを思いついたらよくネタ帳のようなものに書くんですよ。今回の撮影も、自分がイメージを膨らませるために、デッサンのようなものを書いて準備しました。
たとえば、20歳で思いついたことを、25歳で撮ってみるといい写真になることがある。20歳で思いついたことって、25歳では思いつけないんですよ。それはその人のオリジナリティになるはずです。思いついたアイディアを書きとめておけば、いつかそれが作品になって帰ってくると思います」
撮影チーム:
フォトグラファー 舞山秀一
モデル 村野みり
スタイリスト 設楽和代
ヘアメイク 橋本孝裕 (SHIMA)
BTS撮影 平舘平