野生動物に始まり、動物園の動物や犬や猫のペットまで、あらゆる動物の一瞬を写しとめる写真家、福田豊文。
愛くるしい表情や動きまわるしぐさ、意外な瞬間をとらえた写真は、大判のカレンダーや書籍、雑誌などに掲載され、多くの動物ファンや子どもたちを楽しませている。見ると思わずほほが緩んで、和む写真ばかりだ。
世界最大の猫種血統登録機関(TICA)で、2014年~15年にアビシニアンとしては世界一、アジアではベストキャットに選ばれた猫、名前はシャロンちゃん。
べンガルの子猫たち。じゃれあいながら遊ぶ一瞬のシーンを捉えた面白おかしい貴重なカット。
ゴールデンレトリーバーの兄弟。飼主に向かって、嬉しさを全身で表現するように駆け出す瞬間を連続撮影で捉えた1コマ。Pro-8A Airの威力が、この絵柄にも大いに発揮されている。
そんな動物写真の第一線で長年活躍する福田が、最初に動物に興味を持ったきっかけは、中学生の頃に見たテレビ番組『野生の王国』だった。世界各地の動物の生態系に追ったドキュメンタリー番組だ。
「すごく面白くて、こんな仕事ができたらいいなと思って観ていました」。
同じころ、『アニマルライフ 動物の大世界百科』という週刊誌にも出会う。世界中の動物が紹介されている雑誌だった。「撮影者のプロフィールに『動物写真家』という肩書が書かれていました。そんな職業があるんだとその時に知って、なりたいと思ったんです」
ちなみにその時クレジットされていた名前は、日本の動物写真家の元祖とも言われる田中光常氏の名前だ。
高校卒業後に、写真の勉強をするために上京して専門学校に入り、井の頭自然文化園や多摩動物公園などで動物を撮り始めた。
アフリカケニアの野生動物たち。主に早朝、夕景の動物のシルエットをメインに撮影してきた。若き日の思い出の作品。
卒業後は動物写真家を目指したかったが、仕事はすぐに見つからない。そこで学校の先生が紹介してくれた目白のスタジオに就職して、あらゆる商品撮影をこなし、撮影技術を磨いた。1年半働いたが、やはり動物写真への想いが募り、スタジオを退職した。
「それで、いきなりアフリカに行ったんです」
アフリカのケニアにある国立公園のキャンプ場にテントを張り、日の出とともに車を動かして、キリンやゾウなどの動物を撮る。2か月間、ひとりで思う存分、撮影に明けくれたのだ。帰国後も、再びアフリカに行くために働き、お金がたまるとまたアフリカへ戻った。
手ごたえのある写真も撮影できて、現地で出会ったカメラマンと一緒に、新宿のギャラリーで写真展を開催した。
またその後は、故郷、佐賀県の有明海に生息するムツゴロウに興味を持ち、撮影を始めるようになる。
「繁殖期の5~6月になるとオスがぴょんと干潟を飛び跳ねるんです。ふだんは地味な魚ですが、飛び跳ねたときにピンと立つコバルトブルーの背びれがきれいで。思い切りジャンプしている瞬間を撮影するのは難しいのですが、撮れると面白くて」。
佐賀平野に生息する鳥、カササギも追いかけ撮影した。ムツゴロウとカササギの写真は、それぞれ雑誌「ニュートン」に掲載され、このころからプロとしての自覚が芽生え始めた。
九州有明海の干潟に生息するムツゴロウ。4月下頃~6月中頃まで、繁殖期のオスは、メスにアピールするため求愛のジャンプを泥の上で繰り広げる。この瞬間の撮影に取り憑かれ、ほぼ20年近く干潟に通い続けた。
そんなあるとき、福田に転機となる出来事が訪れる。ヨークシャーテリアを飼い始めた友人に、撮影を頼まれたのだ。それまでペットの撮影に興味はなかったが、やってみると、簡単そうに見えて実は意外に難しいことが分かった。
ヨークシャーテリアの子いぬはとても元気で、じっとすることがない。しかも当時はフィルムカメラ。オートフォーカスではなく、ピントもリングで合わせる。たとえストロボがあったとしても、動き回る子いぬにピントすら合わせられず、撮るのは難しかった。
そこで、たまたまトイレに入っておとなしくなった時の顔を撮影すると、なんとかかわいい表情の写真が撮れた。試しにその写真をストックフォトのライブラリーに預けてみると、1週間もしないうちにジグソーパズルの写真に使われ、その後デパートのポスターにも使用されたのだ。
生後2ヶ月余りのポメラニアンの子犬。「ヤァー!」と挨拶でもしているかのようなポーズだが、やはり、連続撮影で捉えた一瞬の仕草であり、貴重なカットである。
ミヌエットという子猫。以前は、ナポレオンとも呼ばれていた。元々は、ペルシャとマンチカンをもとに作出された短足の猫。短い後ろ足で立ち上がるのが得意。
「アフリカの野生動物の写真はほとんど使われなかったのに、犬の写真はすぐに使われたので驚きました。これは世の中に必要とされている写真なのだと分かって。それから本腰を入れて、仲間と一緒に子いぬや子ねこの撮影を始めたんです」
子いぬや子ねこが生まれたと情報が入ると、飼い主さんの家に伺って、簡易的なスタジオをセットし、撮影をする。
生まれて間もない生後1〜2か月くらいの子いぬや子ねこはいちばん可愛い時期だが、よく走り回るので、瞬間を切り取るためにストロボの力が必要だ。
上下2灯に傘を付けて撮影する。上の光を太陽として、下手前の光はレフ板として使い、太陽の光でできた影を起こす。
生後約3ヶ月のハウスホールドぺットの子猫。何にでも興味を示し、撮影中は飛んだり、跳ねたりと大忙し。ボールの動きに驚いてか、尻尾がフワリとふくらんでいる。
2009年からプロフォトのPro-8aを使うようになったが、使い始めるまでは、歯がゆい思いをすることも多かった。
「カメラは進化しているので高速連写ができるのですが、チャージ時間が長いストロボだと、連写できないんです。プロフォトはチャージ時間が短いから高速連写で撮ることができる。とりこぼしがないので、写真がガラッと変わりました」
パーティーカラーの珍しいトイプードルの兄弟。2頭が全力で前に向かって走ってくるシーンを、連続撮影で捉えた瞬間だ。Pro-8a Airの使用で、犬たちの最高に喜ぶ表情を捉えることができた。
たとえば招き猫のように片手をあげているシーンは、それまで手を挙げる瞬間だけとらえていたため顔も一緒に上を向き、表情が見えないシーンしか撮れなかった。
しかし上がった手と顔が、下がる瞬間まで連写で撮れるため、正面を向いたシーンも撮れるようになったのだ。それまでこのような写真はなかなか撮れなかった。瞬間を写し取る写真では、「プロフォトがないと仕事にならない」と福田は話す。
仰向けに寝転んでいる姿勢から、起き上がろうとするほんの一瞬を捉えた愛くるしいシーン。どの子猫もこのポーズは可愛いのだが、なかなか撮影は難しい。
メインクーンの子猫たち。猫じゃらしを捕まえようと前足を伸ばしている瞬間だが、顔が正面を向いているため、まるで『招き猫』ポーズのようにも見える。
また、外で撮影する場合には、バッテリー式で持ち運べるB2を使用している。
人物と同じように、いぬやねこの瞳にもキャッチライトを入れると活き活きした表情が撮れるが、曇りの日や日陰では、光が少なくてレフ板で光が起こせない。そういう時は、レフ板代わりにB2とOCF ビューティーディッシュ ホワイトを使用してキャッチライトを入れている。
猫種最大のメインクーンの子猫。室内での撮影だが、野外を背景にしているため、B2を使用し、TTL、HSS機能をフル活用して撮影した。
満開の紫陽花を背景に豆柴の顔のアップを撮影。B2を使用したことで、目の中に生き生きしたキャッチライトが入り、HSSにより、鼻先をペロリと舌でなめるユーモラスなシーンを捉えることができた。
ミニチュアダックスフントの子犬。室内での撮影だが、ベランダの庭を背景にし、動きのあるシーンを撮りたかったため、B2を使用した。
そしてもうひとつ、使用する機材やテクニック以外にも、子いぬや子ねこを撮るコツで大切なことがある。うまくあやして、動きをつけたり、カメラ目線をもらうことだ。
「猫じゃらしだけで100本くらい、いろんな種類を持っています。僕は、いつも望遠レンズの70-200㎜を使って、少し離れたところから撮影するんです。そうしないと、怖がってしまう子や逃げてしまう子がいるので。妻が動物のそばであやす係なのですが、そのコンビネーションが大切ですね」
シカゴ郊外のミヌエットのブリーダーさん宅で撮影。撮った画像をその場で見せると目を潤ませながら喜んでくれた。ペット撮影は、野生動物の撮影とはまた違う喜びがあり、撮り続ける原動力にもなっている。
30年以上、続けていてもまったく飽きないのは、カメラやストロボの進化により、撮れる写真が年々増え、いままで撮れなかった写真が撮れるようになってきているから。また動物と対峙するたびに、いまも福田が感動し続けているからだ。これからもずっと、いままで見たことのない動物の意外な一瞬が、見られるに違いない。
一見、無毛で弱々しく見られるスフィンクスだが、実は、かなり活発で、跳躍力も抜群。
縄文犬とも呼ばれる柴犬保存会の犬たち。あえて逆光を利用し、B2をレフ板代わりとして撮影。コンパクトで、軽量なため持ち運びも苦にならない。
サーバルキャットの躍動シーンを捉えてみた。「美しさ、可愛さ、賢さ。サーバルは究極の猫」とも言われている。
写真家:福田豊文