窓の光は私たちが日常生活の中で最もよく目にしていて馴染みのある性質の光と言えるかもしれない。刻一刻と変化する窓から差し込む光を眺めていると飽きない。窓の大きさや形、位置、外の環境、部屋の中の環境、時間帯によっても、様々な光に出会うことができる。
絵画の世界でも、窓辺に立たせた(座らせた)人物が描かれた肖像画が多く、特に「光の魔術師」として名高い画家レンブラントの作品では、窓の光を巧みに使った美しい光の描写が際立つ。
人物撮影で窓の光を活用する際に基本となる、窓と被写体の位置関係によるライティングの違いを解説する。
部屋の中にある一つの窓の光を利用して人物撮影を行う。面光源である窓に対してどの位置に被写体を立たせるかによって、被写体に当たる光がどのように変わるのかを見ていく。下の図のように、窓枠より後ろ寄りの位置(ポジションA)、奥側の窓枠あたりの位置(ポジションB)、手前側の窓枠あたりの位置(ポジションC)、それぞれに被写体を立たせた時の撮影結果を見てみる。
窓枠より後ろ寄りの位置に被写体を立たせたポジションAでは、被写体に対してほぼ正面(カメラ)側から光が当たることになるため、影の少ないフラットな光となっている。
窓の光:ポジションA
ポジションAよりカメラ側に近いポジションBに被写体を置くと、窓からの光が被写体に対して正面(カメラ)側からの光に加えて、よりサイド気味の光になり、被写体の顔の手前側に薄い影が落ちるようになったことがわかる。
窓の光:ポジションB
さらにカメラに近いポジションCに被写体を置くと、正面(カメラ)側からの光はほぼなくなり、サイド光と後ろからの光が中心になり、被写体の顔の手前側に濃い影が落ちる。
窓の光:ポジションC
このように面光源である窓と被写体の位置関係によって、被写体に当たる光の性質は大きく異なってくる。フラット気味の光、サイド気味の光、バックライト気味の光、それぞれどのような光が欲しいかによって被写体の位置を選択し、窓一つを光源にした撮影でもバリエーションを簡単に出すことができる。
窓の光:撮影風景
それでは、光が差し込む窓がない部屋で人物撮影するときはどうすれば良いのか?様々な方法があるが、ここでは王道としてソフトボックスを使って窓の光を再現する。コンパクトでありながらパワフルなバッテリー・フラッシュ Profoto B10 と、携帯性に優れた OCF ソフトボックス 60x90cm を使って人物撮影を行った。
窓の光の例と同様に、ソフトボックスに対する被写体の位置、ポジションA・B・Cでの撮影結果を見ていく。
ソフトボックス:撮影風景
ソフトボックスより後ろ寄りに被写体を置いたポジションAでは、やはりフラットな光が得られた。ほぼ同じ方向性の光を、窓でもソフトボックスでも作ることができた。
同じポジションAで窓の光とソフトボックスの光の撮影結果を見比べてみると、ソフトボックスの光の方が、肌やメイクの色がクリアに出た透明感のある仕上がりとなっていることがわかる。窓からの自然光は、宇宙彼方にある太陽からの光が窓に到達するまでに雲や建物、道路など様々な物体に吸収されて様々な色を失うため、色が出にくく濁った雰囲気になることが多い。一方で、ソフトボックスを使った撮影では、被写体のすぐそばに置いたフラッシュ光源 Profoto B10 (ソフトボックス付)からの光を直接被写体に当てているため、非常にクリアな色を出すことができる。
自然光ではなくフラッシュを使うメリットは、再現性という点はもちろんだが、色をクリアに出せるという点も大きい。
ソフトボックス:ポジションA
被写体を少しカメラに近い位置に立たせたポジションBでは、やはり窓の光の場合と同じように、サイド気味のフロント光になって、美しいショートライトが再現されている。
ソフトボックス:ポジションB
さらに被写体をカメラに近い位置に立たせたポジションCでは、被写体のサイド+バックからの光となり、輪郭が美しく描き出された。
ソフトボックス:ポジションC
面光源として窓またはソフトボックスの光を使って、面光源と被写体の位置関係によるライティングの違いを見てきたが、被写体の顔の角度やカメラの位置によってもバリエーションを出すことができる。窓がある部屋、もしくは、ストロボ1灯とソフトボックスだけでできるので、ぜひ色々と実験してみて欲しい。
ソフトボックス:撮影風景
撮影チーム:
フォトグラファー SHUN
モデル COLETTE(フォリオマネジメント)
スタイリスト 谷川 夢佳
ヘアメイク 本間 ひとみ
BTSフォトグラファー 谷川 淳
衣装協力 N_DRESS