光を操り、鮮やかで瑞々しい食卓の風景を作りだすフォトグラファーの柳詰有香氏。料理を中心に書籍や雑誌、広告など幅広く活躍している。
Profoto A2 と Profoto Connect Pro、様々なライトシェーピングツールを活用しながら、シンプルな1~2灯ライティングで、柳詰氏が食卓風景の撮影を行なった。後編では、動きのある表現や光の陰影と空間を演出したシーンを紹介する。
実際の仕事現場を想定して Profoto A2 とアクセサリーを使用して撮り下ろした写真と、その撮影方法を見て行こう。
動きのある表現
このシーンでは、料理写真にアクションを加えることで「おいしそう」を引き出すという。
「完成品を撮る撮影でも、この食材や料理なら仕上げのソースをかけているところのほうが美しいとか、半熟卵がのっていたら、切っているところのほうがおいしそうとか、あえてやることは多いです。今回も料理の魅力を引き立たせられたらと思って撮りました」(柳詰氏)
デザートのフルーツポンチにシロップが注がれるシーンを撮影。「大人のフルーツポンチ」をイメージし、シロップの揺らぎのある影と泡の透明感、果物のつやっとした質感を表現した。
Profoto A2に Clic ソフトボックス オクタ型 と Clic ソフトグリッド オクタ型 を付けて照射。シズル感を表現するためにシロップを上から降り注ぐ。
「このセットアップだと、お料理を撮影するには少し硬い光になるのではと思いました。本来はもう少し面を大きくしてトレーシングペーパーを垂らしたり、大きいサイズのソフトボックスを使ったりすると思います。でも、Clic ソフトボックス オクタ型 と Clic ソフトグリッド オクタ型 で光をつくり、レフ板で少し光を起こしてあげるだけで充分やわらかさを表現できました」(柳詰氏)
ワンタッチで開き、マグネットで簡単に取り付け可能なClic ソフトボックス。Clicソフトグリッドも、シャワーキャップのように被せるだけで準備完了だ。
「ソフトボックスの組み立てには時間がかかるので、ロケで急いでいるときなど助かりますね。この小さなサイズで、ぱっと組み立てられてやわらかさを実現できるのは本当に感動的でした」(柳詰氏)
次のシーンは、野菜料理でシズル感を表現した。エンドウ豆に出汁が注がれる瞬間を撮影した。イエローの出汁にグリーンの野菜が鮮やかに生えつつ、ライティングでシックな雰囲気を演出した。
「かける、浸る、というのは食材が生き生きする瞬間。そこを狙い、さらに光で演出しました。食材が液体に浸かっているという条件は先ほどのフルーツポンチと同じですが、目指したい雰囲気によって同じライトでもこのくらいの差が付けられます」(柳詰氏)
出汁を注ぎながら撮影のタイミングを見る。穴をあけたケント紙の後ろから1灯直接、照射している。
ごく一部だけに光が届くように、穴の大きさや開け方にもこだわって、黒いケント紙を用意した。
「エンドウ豆だけにピカッっと 1か所、光が当たると美しいのではと思ってこのライティングを組みました。グリッドだけでも光は絞れますが、こういう局部的な揺らぎみたいなものは、ひと工夫するとさらにコントロールできると思います」(柳詰氏)
光の陰影と空間を演出
最後のシーンは、場所も時間もまるで違う状況で撮影したかのような写真だ。どこか異国の食卓の風景のように見える。
「今回の撮影場所は、メイキング写真を見ていただいてもわかるように、自然光が入るとても明るい場所なんです。でもこの写真では、どこの国かもわからないような、少し暗い雰囲気の世界観の中でお料理を引き立てる、というのを実現するために、ポイントで光を当ててみました」(柳詰氏)
このシーンでは、2パターンのライティングで微細な見え方の違いを表現した。
まずは、アンブレラ ディープ シルバー にバウンスさせて撮影した 1枚。奥行きのある画面構成の中にテーブルクロスの皺や食器、食べ物に強い光と影ができて、リアルな食卓を思い出させる立体感のある写真になった。
「シルバーのアンブレラにバウンスさせると、範囲は絞っていますがキリッとした強い光が当たるのが面白いと思いました。バウンスで拡散しているのにすごく硬い光になり、立体感が出るという印象です」(柳詰氏)
アンブレラの下側に黒いケント紙をあてて光を部分的に遮り、奥の食べ物にだけ光があたるように調整している。
アンブレラの差し込み具合によって光の雰囲気が変わる。アンブレラとライトが近いと反射が強くなり、鋭い光になる。
もう 1つのパターンは、Clic ソフトボックス オクタ型 に Clic ソフトグリッド オクタ型 を付けて撮影したものだ。料理や食器に窓から差し込んだ西日のような光が、うっすらとあたっている。まるで準備ができた食卓で、これから食事をする為に明かりを付けに席を立った一瞬のよう。
先ほどの アンブレラ シルバーから、Clic ソフトボックスにClicソフトグリッドを付けたライトに変更して撮影。自然でやわらかい光を表現できた。
最後に、柳詰氏がふだん仕事や作品で料理を撮影するときのこだわりについて聞いた。
「自然な環境をつくるには、“雑さ”や“揺らぎ”みたいなものがどこかに入ってくるのがいいと思っているんです。ライティングを作る時も、完璧にミリ単位でコントロールするというよりは、漏れた光や、通りがかる人の影なども生かしたほうが好きですね」(柳詰氏)
そして最終的な撮影の判断基準としては、「おいしそうにみえるかどうか」ということを一番大切にしているという。
「それが一番ブレてはいけないところだと思っています。アーティスティックに見せることもできし、流行を追うこともできるけど、食べ物である以上、おいしさを伝えたいんです。多くの人が関わるような仕事でディレクションがかっこよくなりすぎたとき、撮影に迷ったときなども、自分を見失わないよう、 “かっこいい”が“おいしい”を超えないように気を付けています」(柳詰氏)
クリエイティブチーム:
フォトグラファー:Yuka Yanazume
フードスタイリスト・料理家:Hiroko Takenaka
アシスタント:Eri Masuda
BTS フォトグラファー:Jun Tanikawa
ライター:Nahoko Ando